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●トットコムの「死の灰」:おきては最強の企業の最強の人材だけが残る
(夕刊フジ:2001年11月8日掲載:ほぼ同じ)
シリコンバレーの経済は、過去10年で最悪の時期にある。テロ事件の影響よりもドットコムバブルの死の灰のせいだ。死の灰の中で人生のカジノゲームが、スピードを増す。ディーラーの女神は人材の実力と運をみて、4種類のご託宣を下す。まず、第一グループは、「プレミアム人材」だ。シリコンバレー全体で数百名から1000名程度で、一流CEO、スーパー技術者、一流ベンチャーキャピタル達だ。かれらにとって景気の波は関係ない。世界は彼らの思いのままに回る。高給とストックオプションという美酒が彼らの盃には注がれ続ける。今こそいい人材を集めやすいから起業のチャンスだとして起業準備中の人もいる。仮に、今勤務している企業がこけても、プレミアム人材達は、人事異動のように別の会社にスムーズに移ることが可能だ。第ニグループは、「しがみ付き組」だ。首はまぬがれているが、プレミアム人材のような保証はない。「誰でもいいから雇う」というバブルの人事政策が、米国流の厳しい個人業績評価人事に一変した。いつ首になるかわからない。評価を上げる努力とともに、知り合いのネットワークを新たに強化して転落の日には、次を紹介してもらえるように備えている。第三グループは「脱落組」だ。例えばあるエグゼキュティブはベンチャー企業に勤めてストックオプションをもらい、それを抵当にして、銀行から多額の借金をして、高級住宅・車を買った。同社の株価が暴落し、オプションの担保価値が下がり銀行はすぐその値下がり分の返済をせまった。結局、住宅や車を売って、今は借家住まいだ。あるいは、インド人や中国人の技術者達の中には雇用者が倒産しビザが無効になり、帰国をよぎなくされた人達がいる。シリコンバレーらしいのは、脱落組みを集めたパーティーがリクルーティングをかねて開かれていることだ。就職口は少なくなったが、パーティーは盛況である。第四グループは、臥薪嘗胆組だ。コミュニティーカレッジの駐車場は今、スキルアップを求める若者で満杯状態である。あるいは、薄給だが好きな仕事で腕を磨き、夜はレストランでバイトという人も結構いる。やや年配で、腕に自信のある人は自営コンサルタントをしている。コンサルタントという名刺をみると、失業中か、と思ってしまうほどだ。
不況の中でのシリコンバレーの掟は、最強の企業の最強の人材だけが残る、である。この掟の中に生きる人達の生き残り策は、自分の最高のものを最高の形に磨きあげて勝負することである。
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