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● 米国住民の踏絵になったテロ
(夕刊フジ:2001年10月4日掲載)
私は、人材コンサルタントで、以前は中東問題を専門とする外交官だった。何の因果か今は米国で暮らしている。例のテロ事件は、米国の住人すべてにとって踏絵だった。事件後私は20人に会ったが、例えば次のような意見を述べた上で、必ず「お前はどう考える」ときいてきた。
才女マギーは「テロリストの誤算は、米国が団結したことよ。混乱におちいるfどころか、精神的にはかえって強さがでてきた。だから首脳の反応も、過激にならず落ち着いて計算したものになったのよ。もし、ホワイトハウスと議事堂がやられていたら、もっと混乱していたかもしれないけど。」
ニューヨーク出身のジョンは「クライエントのためのセミナーを上司は中止しろといったが、ビジネス・アズ・ユージュアルが大切だから実施した。平常心であり続ける姿勢を、テロリストにみせつけたい。週末にはラスベガスでパーティがあるが、決行する。ホテル代は、半額だしね。」
某米国人教授は「世界中で傲慢なふるまいをしてきた米国は当然の報いを受けた。テロリストの組織運営は、すばらしく効率的で、ビジネススクールも学習対象とすべきだよ。」
イスラエル人トーマスは「テロは自由すぎて甘い社会でおきるんだ。」
エジプト人モハンマドは「これはイスラムじゃない。米国の過剰反応が心配だ。」
私は3つのことを考えた。一つは、こういう事件で、日本的なあいまいな答えをすると人格を疑われる(私は、自分達の自由を守るために戦うべき、という立場だ)。2つめは、単に、米国追従だと、知性を疑われるし、非常にあぶない。なぜ、米国がねらわれたのか、テロリストを生み出す背景について冷静に分析して、リスクを直視することが必要だ。3つめは、いつ死ぬかわからないリスクの中で暮らしているからこそ、自分のやりたいことを今、この瞬間から少しでもやっておきたい。また、私がいつ消えても、家族が自分で生き抜けるよう「自律支援プログラム」をはじめた。
● テロについて
(これは掲載しなかった。NHKの解説委員みたいなのでやめた。でも、こっちの方が私の考えや外交官の痕跡が出ている。)
私は、人材コンサルタントだが、以前は、中東問題を専門とする外交官だった。4年ほど中東で情勢分析にあけくれた。何の因果か、今は米国で暮らしている。今の私には、世界をゆるがした9月11日のテロ事件のことしか頭にない。
単純化していえば、米国とテロリストを両極とする「正(聖)戦」がはじまった。正戦は冷戦よりも強敵だ。イスラエルの外相がのべたように、テロ組織は現代国家のガン細胞だ。あの攻撃はガンの存在告知である。テロリストは米国の特定の政策に反対しているのではない。彼らの攻撃対象は、米国がよってたつ価値と物質的繁栄である。米国の反撃も「ガン」対策に似てくる。放射線治療(限定軍事行動)に加え、禁煙(徹底的な治安対策)と健康生活(ビジネス・アズ・ユージュアル)の堅持がその中心だ。米国に先立ち「ガン」と戦ってきた欧州やイスラエルの先輩が種種助言している。
他方、テロリスト達にとって、米国こそガンである。 イスラムの聖地を擁するサウジアラビアへの米国軍駐留、親イスラエルの米国外交、石油確保のための非民主的政権支持、貧しい人々にみせつけるかのような米国資本主義の繁栄、等がその理由である。さらに反米的報道に満ちた地元メディアの中で暮らす中東・イスラムの人々の間には、米国の悪い面ばかり伝わり、驚くほど反米感情が強い。テロリストの米国憎悪は決して例外ではない。
私は、米国の自由主義とイスラム原理主義の間での選択を迫られれば間違いなく前者を選ぶ。対米関係の観点からも、テロリストがつけいる弱点とならないためにも、はっきり米国の側に立つべきだと思う。ただし、それだけだと我々は、「醜い」米国の共犯者となってしまう。それを防ぐには、テロの温床地域の人々に対して、彼らの考えと気持ちへの積極的傾聴を行いつつ、私達がなぜガン対策を講じているのか、何を守ろうとしているのか粘り強く伝えていく努力が必要だ。日本の外交努力もここに焦点をあてるべきだと思う。 |
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