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● 胎児件がこじあけるパンドラの箱:炭そ菌で意外な意見や反応
(夕刊フジ:2001年10月25日掲載:掲載文より数行長め)
炭素菌事件は、米国全体を恐怖で席捲した。私が「意外」と思った見方をいくつか紹介したい。私が計画中の青少年グローバル人材養成ベンチャーを支援してくれているドンは、シリコンバレーの起業家達の間で出ている考えだとして次のようにいう。「国民は忘れやすい。今回の事件も、関心が集まるのは、結局クリスマスまでだろう。今後も炭素菌さわぎが継続したり、散発的に類似の事件がおきれば、関心がつながるかもしれない。でも、頻度が大きくなれば、それに慣れてしまう。慣れたらニュース性は薄れる。ニューヨークで殺人がおきても注目されない。炭素菌事件も、実体的なリスクというよりも、新しい現象に不慣れなことからくる心理的な恐怖の問題だ」
グローバルなリーダーシップを研究しているクリスティーンはいう。「この恐怖がしばらく続いたほうがいいわ。恐怖のおかげで、やっと米国国民もグローバルな問題に関心を持ち出した。コーランや中近東関連の本も売れに売れている。米国が見捨てていたアフガニスタンの問題にもやっと焦点があたった。今冬懸念されたアフガニスタンの飢えの虞は、米国が攻撃とともに食料援助を行ったことによってむしろ小さくなった。」
ニューヨーク生活の経験も長い日本人Aさんは、メールで、「なぜ炭素菌でこんなにさわぐのか、そんなのより交通事故のリスクの方がもっと高い。抗生物質を買いに行く途上で、交通事故にあうことを心配したほうがいい」といかにも金融の専門家でリスク問題を日常的に扱っているらしい意見をよこした。
「悪の経営学」という科目があったらこれは最「悪」のケーススタディ教材だ、というのは、ユダヤ人で超リベラルなト学者トーマスだ。トーマスの見方はこんな感じだ。まず、イスラム原理主義という価値観を共有化した上で、実際の組織運営や行動は、ネットワークを利用して自律分散型だ。9月11日のテロ事件も炭素菌事件も、ビンラーディンやアルカーディはベンチャーキャピタルの役割で、起業家(主犯兼実行犯)は別にいるのではないか。テクノロジーをうまく悪用しつつも、決してテクノロジーにおぼれず、効果を重視して、敵の裏をかく「戦術」という面でもほぼトリプルAだ。マスメディアを徹底的にしかも無料で利用するマーケティングにも卓越したものがある。いまや米国では白い粉をみたらパニックが起きるまでになっている。
私も、こうした意見に当初違和感を覚えたが、次第にこう思い始めた。「個人がとり得る安全策などたかが知れている。むしろ、このとんでもない事態の力がこじあけつつあるグローバルなパンドラの箱から何がでてくるのかしっかりみよう。グローバルな視野でファクトをみて、自分のもっている既存の枠組みをゆすぶるまたとないチャンスだ。」と。 |
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