TOP > 徒然草 > 上海の地水火風  > 新上海の風4








新上海の風1
新上海の風2
新上海の風3
新上海の風4
新上海の風5
新上海の風6
新上海の風7
新上海の風8
新上海の風9
新上海の風10
新上海の風11
新上海の風12
新上海の風13
新上海の風14
 


 
新上海の風:第四回
  意味濃度2

 前回、中国語は、漢字のおかげで意味の濃度が濃くなっていて、言語として効率がいいという話をした。日常使うような表現で、日本語と中国語を比べると、ならしてみると、日本語は、中国語の1.5倍から2倍の長さかかってしまう。
  しかし、ほんとうに中国語の方が効率がよいのか?
  私は、中国にきてから、中国の人の前で、スピーチを何度も行っている。まだ私の中国語のレベルではスピーチは無理だから、日本語や英語で行う。そういうとき、中国語の通訳がつくのだが、特に、私が日本語で話した場合、通訳の時間が2,3割長めになる。特に、うまい通訳であるほど、長くなる。最近は、通訳が中国語で何をいっているか、部分的にはわかるようになったからよく聴いていると、どうも私がいってないことを加えているようだ。状況説明や背景説明を加えている。たとえば、私がちょっとそこまでやるかと思いつつも、なるほどと思った例がある。
  ある日系企業で、私が、業績評価について話していて「こういう評価では、結果だけでなくて、プロセスを評価することも大事です」という趣旨のことをいった。すると優秀な通訳は、私が話したことを忠実に訳した上で、それに加えて「中国人は結果だけ注目しがちですが、日本ではプロセスを大切にします。日本企業ではプロセス、それも個人のプロセスだけでなくてチームで協力するプロセスが大切です」と付け加えた。この通訳も、その日系企業ではたらいているから、日本人が期待する仕事ぶりを、なんとか伝えようとしたわけだ。オリジナルの話よりも、気が利いている(ちなみに、こういう通訳のことを、私の仲間は、added-value interpretationなどという)。でも、ちょっとやりすぎだろう。
  さて、どちらが正しいのか?中国語は意味濃度が高いから、日本語より効率的で、日本語より短くてすむのか?それとも私が通訳された例がしめすように、長くなってしまうのか?
  そこで、友人で中国に詳しく、中国語にも堪能で、中国人を奥さんにしているTさんにきいてみた。Tさんいわく:
「私もずいぶん長く中国とつきあっていますが、意味濃度という視点はすごく面白いですね。確かに、もし「同じ」ことを話せば、日本語のほうがながくかかかるでしょう。」Tさんは、私にとって中国についての先生みたいな人だから、先生からほめられたような気がしてちょっといい気分になっているとTさんは続けて言う。
「でも、キャメルさんが通訳を通じて経験したこともそのとおりですよ。どうしてだかわかりますか?」
  さすが先生で、私は、検討がつかない。
「異文化コミュニケーションで、ハイコンテクストとローコンテクストという話をキャメルさんもご存知でしょ (私の修士論文は、異文化マネジメントで、そこでもつかったコンセプトだから知っている。よかった。)。日本語は、おそろしくハイコンテクストです。つまり、「文脈(コンテクスト)」依存度が高い言語です。いいかえれば、言葉としては、ほんの一部いうだけで、文脈からいろんなことが判断されるという想定になっています。日本人は、同質的で同一言語で、狭いところで暮らしている、ことが背景にあります。いちいちいわなくてもいいわけです。」
(それは、私にもわかっているよ、先生、と思いつつ)「それで中国語はどうですか?」
「中国語は、逆に、おそろしくローコンテクストなのですよ。文脈依存度が小さいので、いちいち説明しなきゃいけないんです。たとえば、レストランにいって、「水」といってもうまく通じません。通じるかもしれないけど、何かしまりがない感じになります。「水がほしい、なぜならば私はのどが渇いたから」というふうに、「理由」を説明しないと落ち着きません。(ちなみに、なぜならば、という中国語は、因為(インウエイ)で、これは非常によく聴く言葉だ)」
  さらにTさんはだめをおすように続ける。「たとえば、僕が、日曜日に、外出するとき、「ちょっと外にでてくるよ」というだけでは、中国人の家内は変な顔をします。「ちょっと外にでてくるよ、なぜなら、僕は本を買いに行くから」というふうに、理由を説明しないとだめなのです」
  ということで、江戸のかたきを京都でとる、みたいなことになっているようだ。中国語は、意味濃度の点では効率がいいが、文脈にたよれないので、その分、たくさんのことを説明することになる。中国は多民族だし、中国語といってもいろいろあるから、きっとそうなのだろう。
  ところで、Tさんの奥様は、きれいで上品でアタマもよくて、話していると楽しくて、僕もうまれかわったら次はああいう人などと思わないでもないが、外出の理由まで説明するのは、とても僕にはできそうにない。日本人でよかった。



キャメルの徒然草7つの才の深掘り転職マインドテストフィードバック10代のグローバル人材教育家族はキャメルを超えるTOPページ