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新上海の風:第十四回
  先行指標としての中国人材

10月後半から11月の初めにかけて、2週間くらいのうちに、7回講演を行うはめになった。前回、あんなことを書いたバチがあたったのだろう。そのうちの2回は、欧米系の集まりで(そこにきているのは、欧米人もいるが、多くは欧米系外資に勤める中国人)、僕も英語でスピーチをさせられた(加重罰?)。もっとも、無料で行うかわりに、他のスピーカーの話をただできかせてもらった。おまけに、欧米系の集まりだと、スピーチからの情報もさることながら、ランチのときに、いろいろ話がきける。おかげでかなりの情報収集=お勉強ができた。食事の味より、情報の味の方が気になるたちだが、久しぶりに満腹感を味わった。
そういう場で仕入れたこともおりまぜながら、中国の人材事情について改めてご報告したい。中国と関係ない読者もいらっしゃるだろうが、僕は、ここでの話は、日本でももっとみえにくい形で起きていると思っている。
まず、僕がいまさらながらちょっとショックうけたデータを紹介しよう。この話は、スピーカーの一人だった中国人のヘッドハンターからきいた。それは、「中国の人は、一つの会社に、どれくらいの期間いるのが適当と考えているか」という質問への回答である。
 ・41%は、3年程度が適当と回答した。
 ・55%は3年と5年の間くらいが適当と回答した。
 ・5年以上が適当という人はわずか4%しかいない。
僕の周りの中国人の間でも、3年一箇所(一つの企業)にいると、「どうしたの、何か問題あるの」と友人からいわれるそうだ(この質問には、成長していないんじゃない、という意味がこめられているようだ)。
こんな具合だから、僕のところ(ワトソンワイアット)も含めて、中国において「従業員がなぜやめるのか」は随分調査している。なぜやめるかをわかった上で、対策をたてることが、人材マネジメント上、かなり重要だからだ(実は、同じ経験を、僕はシリコンバレーでのドットコムバブルのとき経験している)。
これまでは、「やめるのはなぜ」に対する常識的な答えは、以下のようであった。
・ やめる理由の第一は、給与である(ちょっとでも高い給与のところに移る。たとえば、 月給が3万円くらいの人が、3万3000円くらいのところにも動く。ただし、それとあわせて地位があがる。たとえば、平社員から、ジュニアのマネジャーとかにである。)
・ 他方、残る理由は、給与ではなくて、その会社の将来性とか自分のキャリアの可能性とかである。
しかし、最近得た情報から、ちょっと違う有様もみえてきた。
それは、まず、個別の企業が行う「出口調査」では本当のことはわからない、という点だ。やめるといってきた人に、なぜかときいても、たいていは、「ちょっと家族の事情で」とか「少しいい条件のところがでてきたので」とか「留学したいので」である。
やめる人にとって、やめるところといたずらに関係を悪くしても何も得しない。評判もいろいろきかれるのだから、なるべく穏便な理由で、気持ちやめさせてほしいというのが合理的な作戦だろう。
だが、やめて3ヶ月くらいたって、第三者がインタビューしていろいろ聞くと、ほとんどの場合が、「直属のマネジャーが気に入らない」という理由である。気に入らない理由は、千差万別だが、やめる・やめないという決定において、直属のボスの影響は強調してもしすぎることはない。これとあわせて、直属のボスのボスたちの態度(レベル、質、能力)もかなりの影響力をもっている。ヒトは結局、社会的動物なのであろうか。
さらに、もう少し「やめる」関連の情報をやめないで続け、「いつやめるか」ということについて仕入れたネタを紹介しよう。
やめるヒトの50%は就職後、3,6ヶ月でやめる。その次は、3年目の危機だ。これは、そこで昇格できるかによるところが大きいとされる。次は、5年目で、このタイミングだと、本当に、自分はここにあっているのだろうか、ここにずっといるべきなのだろうか、という実存的な自問自答をする。
以上に加えて、「3つの「中」問題」というのがある、とスピーカーの一人の中国人がおしえてくれた。第一は、「中」年の危機で、これは40歳前後だ。もう一つは、「中」間的な所得で、3つ目は「中」間管理職である。こういう「中」ゾーンにはいると、「このまま中間的で平均的なヒトとしておわるのか、それとも一発勝負にでようか」みたいな気持ちがおきてくるのだろうか(ここは、なぜそうなのか、この話をしてくれたヒトにもう一度あって確かめてみたい)?
そういえば、中国に長く滞在している英国人のスピーカーからこんなフレーズもきいた。
research tells us people leave a manager, not a company
英語を書いたら、急に、もう一つ話を思い出した。これは、やめる・やめないと並んで重要な「採用」の話だ。活躍しそうな人材をとって、活躍してもらえば、それ自体が強い動機づけになるから、やめる率はさがる。単にやめないだけでなくて、まさにそういう活躍をしてもらうことがもともとのねらいだろう。中国でも、タレント人材については、トップが自ら時間とエネルギーとお金をかけて採用するのだが、極めつけの話をきいた。
中国のマイクロソフトは、ある中国人エンジニアを採用しようとして何度もアプローチした。でも彼はまだ迷っていた。仮にこのエンジニアをワンさんとよぼう。ワンさんが、ある朝、自宅で歯を磨いていた。すると携帯が鳴った。めんどうくさいなとおもって仕方なくでると電話の向こうから「僕はビルだけど、how are you?」。きょとんとしていると「ビル・ゲイツだ」という。そう、マイクロソフトのビル・ゲイツが、中国の1エンジニアに対して、採用のために、米国からわざわざ国際電話をかけてきたのだ。ワンの眠気もふっとびいろいろ話した。最後にビルはこう結んだ:「わが社にはいって、一緒に、技術を使って世界を変えていこうじゃないか。われわれは、君みたいな才能を必要としている。僕も君の話をきいて、じっとしていられなくなって電話したんだ。これからもよろしく」と。いうまでもなく、ワンさんは即、マイクロソフトにはいることを決めたという。
ちょっとまとめよう。
中国において、人材マネジメント上の最大の問題と考えられる、やめる・やめない、を決める第一の要素は、直属の上司がどういうマネジメントを行うかである(人柄も含む)。もう一つは、トップマネジメントチームがどういうマネジメントを行うかである。もう一つはそもそもどんな人を雇うかである。
どんなに人事制度や経営的な手をうっても、結局聞くのは、直属の上司がどういう人でどういう行動をとるかなのである。給与制度などの人事制度が大切じゃない、というつもりは毛頭ない。ただし、よくいわれるように、給与制度は、衛生要因である。そこがだめなら、他をいくらよくしてもだめだ。でも、そこをよくしたからといってヒトは動機づいたり、コミットメントを強めたりといったことはあまり期待できない。給与をあげても、それがきくのは、給与をあげたときだけで、一回限りの効果である。給与でヒトを動かすには、ずっとあげ続けるはめになる(ちょっと単純化しすぎているが)。
いや、もっといえば、人事制度その他は、そういう直属の上司になる人の選別とか、いったんそういう上司になった人の行動を変える上で効果をもってこそ、はじめて意味がでてくるのだろう。
僕が今回お話したのは、どぎつい中国ものだ。こんな話、日本とかけ離れているから、安心して、読まれた読者もいるだろう。隣の国の変わったお話、キャメルが話す、きっと誇張のはいった劇画みたいに思われている方もいるだろう。
確かに、日本では、まだ、多くの企業で、従業員が「投票権」をもっていないから、こういう「離職」という形で露骨にはあらわれていない。でも、もし、もっと日本の労働市場が流動化して、従業員が投票権をもつようになったら、きっと、皆さんも、こういう目にあうのである(あるいは皆さんが上司をこういう目にあわせるのである)。いや、すでに、皆さんは、もっと隠れた形でこういう目にあっているかもしれない。みなさんの部下とか部下の部下には、会社をやめこそしないが、こういう中国人と同じ気持ちで、心ここにあらずの人がいるかもしれない。あるいは、もうあきらめてしまって、達観してしまった人たちがいるかもしれない。




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