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新上海の風:第六回
  電車の米国人が語る日本発中国物語

 成田エクスプレスで、東京駅から空港第二ビルに向かう途上、隣の席に、席からはみだしてしまう、巨体の外国人がすわった。私は、彼の太い腕にぶつかりながら、おにぎりをたべ始めた。すると、その外国人は「The Economistを読んでいるのか」と話しかけてきた。成田エクスプレスには、数えられないぐらい乗っていて、面白そうな雰囲気の人が隣になると私はよく話しかけるが、逆に、人から話しかけられたのは初めてだ。
  確かに、私のテーブルの上には、ロンドン・エコノミスト誌と日経新聞がおいてある。また、彼のテーブルの上には、ビジネスウイークがおいてある。彼が話しかける前から、ちょっと独特の雰囲気が私と彼が占める空間にはあった。私は、ときに、the economistを購読し、ときにbusiness weekを購読する。でも、なぜか同時に購読していたことはある一時期しかない。
  さて、彼の質問がきっかけで、成田につくまで、1時間弱、話し込んだ。私は、おそらく今、自分の中で、転換期にさしかかっているせいか、こういう偶然の出会いに連続してみまわれている。それはともかく、今回は、彼の話にそって、「日本×中国×米国」的なグローバルなミニ・ストーリーをお話したい。
  彼は、奈良に本社がある、日本の食品ベンチャーに勤める米国人だ。彼の本拠地は、米国のポートランドで、いまは、成田からサンフランシスコの顧客に向かうところだという。その奈良の食品ベンチャーは麺類の材料などをつくっている。中でも春雨のシェアではトップ企業だという。春雨の原料は、中国産だ。この食品ベンチャー企業の「売り」は、有機栽培した農産物を材料とする点である。中国産ときくと、有機栽培の対極にある、殺虫剤や化学肥料まみれの、健康にはあまりよくない、開発農業を連想するだろう。そこで、私が、いぶかしげな表情をみせたのに、日本人の顔の表情の変化をよみとることに、どうもなれているらしいこの男(クリスという)の口からは、自然と補足説明がでてきた。
  「中国原産の材料を使うといっても、殺虫剤まみれの南部ではないよ。中国の黒龍省など東北地方で栽培したものを使う。そのあたりには、まだ未開で、肥料や殺虫剤も使わない原始的な農業をやっているところがあるんだ。それを、中国人の目ざとい事業家が、みつけて、古いやりかたをそのまま保存して、有機栽培として売り出している。俺の相棒は、カナダにいる中国人事業家で、彼と契約したんだ。奈良の会社自体は、商社を通したまじめな商売をやっているだけで、こういう関係はつくれないが、それじゃ限界があるよ。」
  私は、「温存された未開」が「先端」になるという点に、興味をそそられた。中国は空間的に広く、時間的に長い。いろんなものが温存されているのだろう。それを、世界の目で、引き出す可能性がもっとあるに違いない。
  クリス(成田エクスプレス上の隣人)の生い立ちも、面白い。自分のことをglobal kidといったが、まさにそうだ(帰国子女は帰国してしまうが、global kidは帰国しなくてもよい)。クリスは、ドイツで幼少のころから16年すごし、米国で14年間すごし、日本で16年間すごしているという。奥さんは日本人。数年前のある時期、三つの国での生存期間がイーブンになったこともあるという。クリスの専門は、マーケティング分野のコミュニケーションである(会話の端々にはさむ日本語のレベルはかなり高い)。あわせて、異文化経験が豊富だから、異文化コミュニケーションとマーケティング・コミュニケーションをかけあわせた事業を、自分で、東京でやっていたという。ITバブルのころは、ハイテク企業中心に米国から日本に進出する企業を助けて、結構いいビジネスができていたらしい。ただ、ITバブルがはじけたので、店をなかばたたみ、米国にもどろうとしていたところで、この食品企業をしり、そこに勤めて、そのグローバル化を助けることになった。
  さて、彼がこの日本の食品ベンチャーと知り合ったのは、同社がシリコンバレーにおくりこんだ、日本人社員を通じてだ。この日本人社員の経歴も面白い(もちろん私はあったことはないけれど)。米国でMBAをとり、外資系のハイテク企業に勤めていた。しかし、30代なかばになって、その会社に勤める限り、米国勤務の可能性がないことがわかった(日本で外資系に勤めても、本国で勤務できることはめったにない)。そこで、米国で勤める可能性があることを条件に、ヘッドハンターを通じて、名もない、奈良県の日本の食品メーカーに就職した。この辺の事情がよくわからない人は、外国にあこがれて外資系に勤めるが、わかっている人は、外国にいきたくて、日本のローカル企業に勤めるわけだ。
  クリスは、どこにでもいそうな米国人だ。以前にもどこかで書いたが、普通の人がグローバルに活躍するのが、今である。私は、こういう普通っぽい人がグローバルに働くことに興味をもっている。そういう場合、能力というよりも、場のとり方がポイントになる。専門性という意味でのキャリアよりも、どこで育つか、どこで働くか、という場(所)の選択がかぎを握るのだ。なぜか。おそらく人脈の問題だろう。どこにいるかで、誰と知り合いになれるかが決まってくる。個人の能力など限られているから、結局、人脈がものをいう。などとかくと、人間関係重視の古いタイプの人の発言みたいだが、能力と人脈はきってもきれない縁にある。いい人脈をつくるには、能力が不可欠だ。同時に、人脈のなかでこそ、いい能力がはぐくまれる。そういう意味もあって、場の選択が重要だと、最近、つくづく思う(このあたりの話は、4月半ばにでる、「キャメルの体感知の技法」という本のはじめのところに、立ち読みできるような長さで書いたので、興味のあるかたは立ち読みしていただきたい)。
  さらに、クリスとの話は、ここしばらく私が関心をもっている別の二つのことにも及んできた。
  これは、次回に続けてお話することにしたい。



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