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新上海の風:第十二回
  2番手の宿命?

前回、日本企業と教育機関の比較を試みて、続きを次回(今回)にと書いたが、その後もっと面白い話を聞いたので、今回はそちらの話をしたい。「最近、中国で失敗している日本企業」というテーマである。マーケティング関係に造詣が深く、中国において日本企業のマーケティングについてかなり情報をもっている方からきいた話で、ききながら、わが身にもぐさっとくるところがあった。皆さんと痛みを分けあえればと思ってお話する。
失敗する第一のケースは、「中国に来る人」の問題である。「カラオケ通いにはまってしまうおじさん」が経営するような企業は失敗する、というしごく当然のお話だ。上海のカラオケにいけば、おじさん自身はともかく、おじさんがもっているお金は確実にもてる。特に、日本で若い娘さんからちやほやされた経験をもたない、うぶなおじさんはあぶない。その面での免疫がまったくないからだろう。そういう人たちもカラオケ通いだけならまだ害は少ないだろう。でも、そこから一歩進むと、とたんに危険水域にはいる。
この水域は結構広くい。まずは、カラオケの女性コンパニオンのお持ち帰りをすすめられる。こっちにまだなれないおじさんが、日本の価格に計算して、結構安いなどと思えば、敵の思う壺。実際おもちかえりになって、その筋の方から踏み込まれて逮捕された人もいると聞く(別に反日のとばっちりではない。売春は正真正銘の犯罪だ。)。
あるいは、秘書を愛人にしてしまう人もいるらしい。この方たちが、中国人の胸に、歴史的な問題をリマインドさせるのに一役買っているのかもしれない。日本と上海を行き来していると、飛行場などで、それらしいカップルをみかける。週刊誌の記者じゃないから確かめたわけではないが、それとなくわかるというものだ。
おじさんという自覚を欠いた私も、危険水域に近づいているのかもしれない。中国語の勉強という口実で、中国語の歌のCDにはまっている。日本ではカラオケに誘われると、悪夢だったのが、こっちでは、まんざらでもない。中国語のため、などというのは自分をごまかす心理的小技かもしれない。あのおじさんたちも、中国語を勉強しているのかもしれない。
前置きはこれくらいで、そろそろ、まじめな失敗論に移ろう。
日本企業は消費財のマーケットではなかなか苦戦している。特に、成功した先行日本企業がある場合の、2番手や3番手にとって中国市場は厳しい。化粧品のS社、トイレでおなじみのT社、エアコンのD社など、圧倒的な成功例がある同じ業界の日本企業は、いずれも苦戦している。
たとえば、S社を追うX社。おそらく(確認はとれていないが)、日本においては、S社と同社の差はそれほどでもないから、「Sができているのだから、うちもできるはず」と思って出ていく。そして、短期のうちに売り上げを伸ばせ、という圧力が本社からかかる。いわゆるme tooという後追いである。こういう場合、売り上げをあげることは、代理店に押し込むなどすればできてしまう。それも地方にまでおしこまれて、結局、最後のところで安売り、投売りの対象となってしまう。もちろん、販売代金の回収ができずにこげつくことは、中国だと日常茶飯事。そういう短期の話だけでなくて、実は、この安売り、投売りは、致命的な打撃をXにくらわす。というのも、日本企業が中国市場でかつには、ブランドを確立するしかないからだ。安売り、投売りは、ブランドの面からいうと自殺行為(他殺?)だ。実際、X社が中国で売り出したXaxzax(仮名)には、なかなかS社のようなブランドを確立できない。ブランドが確立できないと、すぐに、中国メーカーからまがいものを出されてしまう。たとえば、Xayzaxのように一文字だけかえて、でも、パッケージなどは甲社のものよりデラックスで、しかも低価格で、攻勢をかけられるとひとたまりもない。中国の人には、どっちが本物なのかわからなくなってしまう。にせものがブランドをつくってしまいかねない。とんでもない話ではないか。
他方、S社のほうは、S社のグローバルビジネスの中で、中国はもっとも利益率が高いマーケットになっているそうだ。まさに天国(S)と地獄(X)の差が生まれるのだが、それを生み出すのは何度もいうようにブランドである。ブランドを作るには、広い中国のどこかに絞り、セグメントも絞って、お金と時間と知恵を使うしかない。あそこができているのだからうちにできないはずがないといって、出て行くとかならず痛い目にあう。2番手ででていって、少しやすいポジショニングをとるとか、より高級なところをとるとかいった手が、なかなか打ちにくいのが今の中国である。
ついでにいえば、トイレット関係のT社や、クーラーのD社は、ブランド確立に成功したから、逆に、マンションその他の広告で、「当マンションは、すべてD社の空調設備とT社のトイレを備えています」という具合に、ほかの企業のブランドづくりに使われるところまでゆく。こういう神話ができれば、ブランド力はますます高まるだろう。おそらく、中国人の面子ということも、ブランドによる格差を助長するのだろう。
消費財の場合、負け気味の企業にとっては、スーパー(ハイパー)など大規模小売・流通との力比べもなかなかしんどい。カルフールなどに商品をおいてもらうには、ショバ代を払うことが必要だ。自分が商品を置きたい地域なら、エントリーフィーと思って割り切ることもできるだろう。しかし、自分のマーケット戦略ではまだそこにでていきたくないような地方のカルフールにまで、商品をおくように要求されるらしい。もちろん、ショバ代もはらって。拒否しようものなら、自分が置きたい地域で置いてもらえなくなるかもしれない。しかも、大型スーパーは、すぐ安売りするので、これも利益やブランドを圧迫する。メーカーからみるとコンビニのほうが、ずっといいという話もきく。ただし、コンビニでも入場料はとられる。もっとも、後発のコンビニで、入場料ただのところもでてきたが、そういう中には、結局、キャッシュがまわらなくなって、つぶれてしまうところもあるらしい。
いや、そういう悪い話ばかりでもない。いまや、各種の国際的な展示会(エキシビッション)は、中国が世界の中心である。そこには、世界中の企業が出展する。特に、B2Bなどで、中国以外の国のグローバルメーカーとの商談がまとまることもあるらしい。中国には世界中のバイヤーがきているのだ。
うーん、でもその程度のいい話じゃ、失敗のリスクに比べて割が合わないような気がしないだろうか。
今回の話もそうだが、どうも、中国とお付き合いするには、かなりの覚悟が必要なようだ。あまりに軽い覚悟でちょっとくると、徹底的にやられてしまう。中国で通用する「強味」を見出して、そこに集中して徹底的に戦う覚悟がないなら、こないほうが身のためかもしれない。
いや、グローバル化した今の世の中、中国でそういう覚悟が必要なら、一衣帯水の日本でだって基本は同じかもしれない。
夏の熱さを冷やす効果があればと思って、今回は、厳しい話を書いたが、効き目はあっただろうか。



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