TOP > 徒然草 > 上海の地水火風  > 新上海の風2








新上海の風1
新上海の風2
新上海の風3
新上海の風4
新上海の風5
新上海の風6
新上海の風7
新上海の風8
新上海の風9
新上海の風10
新上海の風11
新上海の風12
新上海の風13
新上海の風14
 


 
新上海の風:第二回
  ある台湾人半導体の社長  (2005年1月23日)

1月17日、香港から上海にむかう飛行機で、私は本の原稿を書いていた。飛行機は満員で、真ん中の列の真ん中の席だった(チェックインのときに、ドラゴンエアーのかわいらしい女性から、「申し訳ありませんが、満員なので、真ん中の席です」といわれていた)。ふと指が止まり、画面を見ながら考えていると、隣の男が画面を覗き込んでいる。年は、40歳前後。浅黒く精悍かつ知的な感じの男だ。中国語の雑誌をみていたから、多分中国人かなと、私は横目でうかがう。鋭そうなその目は、私が書いているものへの興味を示していた。
「日本語できますか」と日本語で話しかけると流暢な日本語が返ってきた。
彼は、半導体の上流部分の設計や製造をやっている会社の社長であった。その会社は、台湾と日系企業の合弁の会社だ。中国本土のニンポウで、かれらがコンサルティングした半導体の工場(彼らの工場ではない)の開所式があるので、それに向かうために飛行機にのっている。面白そうな男のにおいがしたので、私は、画面をとじて、彼と話こむことにした。以下は、彼からきいた話である。
彼の会社への、日本側の出資者は、半導体などを中心に、ハイテク分野に出資するファンドのような組織らしい。ある日本人エンジニアが、発起人になって、日本の名だたるメーカーや、金融機関など20社くらいからお金を集めて、ファンドを作ったらしい。そのファンドは、台湾企業などと組んで、彼が社長になったような合弁企業をいくつか作っている。半導体の上流部分の会社とかもっと下流の会社とか、アプリケーションの会社とか、関連性のある会社をつくっているようだ。ファンド中心に、半導体の上流からアプリケーションまでをてがける企業ネットワークをつくっているというわけだ。彼もそうだが、そういう合弁のトップには、その分野の技術やビジネスに強い中国人がトップになるというのがお決まりのパターンらしい。そういうトップの中国人たちは、それぞれが、自分のネットワークをもっていて、そこから合弁企業に必要な人材を調達してくる。そういう中国人の個人ネットワークをネットワーク化するようなファンドになっているようだ。金融の世界では、funds of fundsというのがあるが、これはさしづめ、network of networksである。しかも、そういう日本と台湾の合弁企業の、実際の生産基地は、ほとんどが中国本土におかれている。
彼の話で最も面白かったのは、知的所有権にかかわることだ。このファンドには、日本のメーカーでお互いにある分野では競合になっているところ同士が参加していることだ。今の世の中、ほんとうの開発を行うには、知的所有権の問題をクリアすることが必要で、こういうファンドによって、日系の有力メーカーがでて、そこで知的所有権をプールすることができる。しかも、プールした知的所有権を、ファンドが、しっかり管理しながら、彼の会社のような合弁企業で、開発をさせれば、知的所有権の流出はかなり防げるし、しかも、一社の場合にくらべてより強力な知的プラットフォームを利用できるだろう。
こうした動きがでてきた背景には、中国で生産するといっても、単なるOEM生産では付加価値がとれないので、中国で開発も含めた付加価値の高い部分をやる必要がでてきていることがあるのだろう。でも、そのために、知的所有権の流出はさけたい、という配慮が必要だ。そこでこのようなファンドと合弁という方式がでてきているらしい。
私のように、組織や人材を専門にしている人間からみると、ひとつの会社の中の組織・人材論ではもうおさまりきらない、こうしたnetwork of networksの動きは極めて興味深い。
特に、印象的だったのは、彼もそうだが、日本人エンジニアの発起人の人も、どうもどの系列にも属さない、一匹狼の人らしい。かつて、いくつかの商社がこういうファンド的なものを組織しようとしたが、商社の色がつくと、ベストメンバーを集め切れず、あまりうまくいかなかったようだ。この日本人エンジニアは、このファンドにかけているようだ。中国人の彼によると、その日本の人は、自分の貯金は150万円しかもっていないそうである。すべて自分のビジネスにつぎこんでいるのだ。ほとんど「遊び」みたいだ。ちなみに、その日本の人は今は独身とか。
もうひとつ面白かったのは、台湾を含めて、中国人の社会では、社長は、社長同士の仲間ができて、お互いにボードメンバーになったり、株の持ち合いをやるそうだ。インサイダー取引まがいのことも、おきているらしい。そこをあまり潔癖にやると具合が悪いらしい。社長になると、社長の仲間にいれてもらえるから、情報の質がまったく違ってくるらしい。そんな話をしながら、「あなたも、私が社長じゃなかったら、飛行機で隣になっただけの私に、こんな話はしないだろう」といわれた。
また、なぜか、話がアナログとデジタルの話になった。彼いわく「半導体の世界でもデジタルだけではそろそろ行き詰まりにきています。これからは、アナログとデジタルを組み合わせないとフロントティアは開けません」。すかさず、私は、「僕、「体感知」というテーマで、そこをずっと追いかけていますよ。僕の切り口は、異文化マネジメントなんだけど、そこでデジタルとアナログを扱っていて、実は、ITの人の切り口とおんなじで、」と意味不明のことを話し始めた。意味不明で彼のアナログ度をテストしようとしたのだが、彼は見事に合格。ますます興味を示し、「半導体の次の世界規格は、‥‥」と私にとって意味不明の領域にはいったところで、飛行機が上海に到着した。



キャメルの徒然草7つの才の深掘り転職マインドテストフィードバック10代のグローバル人材教育家族はキャメルを超えるTOPページ