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企業ブランド
野球でもサッカーでも、優れた日本のプレーヤーが、欧米の著名リーグに引き寄せられている。おかげで、中国にいても、米大リーグの松井、イチロー両選手の映像は、中国にいても衛星放送で毎日のようにみることができる。でも日本のプロ野球はめったにみれない。これが「ブランド力」の差だ。企業の競争力の源泉であるブランド力は、商品を買う人だけでなく、良い人材を集める力でもある。
私は最近、人材争奪戦のまっただなかにある上海に滞在する時間が長い。中国に進出する企業は、安価な労働力を求めてくる。だが、そういう人たちを効果的に動かすには、賃金が高い分、マネジメント能力も高い人が必要だ。
そうした「稼げる人」は中国でも希少だ。だから、中国企業、欧米企業、アジア企業との間で奪い合いになる。残念ながら日本企業の人材吸引力、すなわちブランド力はいまひとつだ。日本を代表する企業でも、なかなか一流の中国人を惹きつけられない。
なぜか。日本企業では、本社はもちろん、中国の出先でも上層部を日本人が占める。中国人の間では「日本企業に入っても課長どまりで、部長にはなれない」が定説だ。他方、欧米の一流企業は、財務や品質管理など一部の職務を除いて、中国人をシニアの管理職にも積極登用し、人事の「ローカル化」に腐心する。
だれが会社の主要ポジションにつくかは、その企業の価値観、ひいては企業文化ともいうべきものを如実に示す。日本企業の純血主義、日本国籍重視に対し、欧米企業は実力重視の多国籍である。
キャリア投資に敏感で、抜け目のない中国人のなかには、日本企業に入って初期研修だけ受け、その後、欧米企業にマネジャーとして転職する「いいとこどり」さえ見受けられる。日本企業の初期研修の質には定評があるからだ。
先日、北京と上海で、中国に進出した欧米企業の中国人社員たちと懇談する機会があった。彼らは、自分の会社の「良さ」を雄弁に語った。
「急成長しても価値観の一貫性を保つため、コアになるマネジャーは内部選抜する」
「多様性と平等性を大事にしている。女性が出産休暇や育児休暇を取っても、ハンディを負わずに戻れる」
「個人を大人として扱うから、タイムカードなどの時間管理をしていない」
欧米企業は、本国で培った企業文化をかたくなに守り、そのまま中国に持ち込んで、現地社員たちへの「布教」に成功している。人は多国籍化しても、企業文化は純血だ。教えはひとつ、人は多国籍、というしかけである。
日本企業が中国でまるで勝ち目がないのかといえば、決してそんなことはない。
日本的な、現場での実践教育は、発展途上の中国には必要なものだし、四半期ごとの数字に追われがちな欧米企業と違って、人材育成を重視した長期的な観点で経営してきた実績も売り物になる。
日本企業の価値観、企業文化をいま一度確認し、企業ブランドを確立すべきではないだろうか。そして、国籍の純血にこだわることが、企業文化を貫くこととかえって矛盾しかねない現実を直視したほうがよさそうだ。 |
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