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企業統治
今年の株主総会では、ソニー等日本を代表する企業が、企業統治の新制度導入を決定した。従来、企業の統治は、「政策を作る(立法)」、「執行する(行政)」、「検証する(司法)」の三権が、すべて同じ人達(社内役員)に集中していて、三権「未」分立の状態だった。今回導入された新制度は、三権分立の方向を志向するものである。教科書的にいえば、新制度によってはたしてガバナンスの質が向上するかが注目される。ただ、私は、ガバナンス云々の難しい議論よりも、誰が新制度の下で、誰が会社のショーウインドーを飾る「社外」取締役になるか、「企業美人コンテスト」的な側面に注目する。なぜか。
新制度は、サラリーマン社会の頂点ともいえる取締役に、「社外」取締役という外の血をいれることを求める。取締役は、国の統治でいえば国会議員に相当する。国会議員の場合は、国民による選挙で選ばれるが、新企業統治制度における取締役は、取締役自身達からなる「指名委員会」で選ばれるから、一種の「互選」である。そもそも、社外取締役候補は、会社経営者や経営専攻の大学教授などごく少数者に限られるからその母集団はかなり小さい。互選的な選抜の仕組みと、候補者母集団の小ささが組み合わさると、どんな現象が起きるか?占い師の水晶玉のかわりに米国の模様をのぞけば予想はつく。今回の制度はその基本的部分を米国からコピーしたものだからだ。
数年前、米国を代表する1000の企業の取締役について、ミシガン大学の経営学の教授が調査した。該当取締役ポストの合計は10100だが、実際の人数は7682人で、この差は、複数の取締役を兼ねる人がいるためだ。7682人の内、約8割は一社のみの取締役で、14%が2社の取締役を兼ねていて、7%は3社以上を兼ねている。中でも、クリントン大統領と研修生のスキャンダルの際に、大統領の広報担当的役割をはたしたジョーダン氏は、調査当時10の取締役を兼ねていた。その昔、公民権運動家だった弁護士ジョーダンは「黒人を取締役に加えよ」と主張し、たまたまある会社の取締役になる。その会社の取締役会会長から別の取締役会にも誘われるという具合に、芋づる式に他の取締役会にも誘われて、兼職数を10まで増やしていく。米国企業社会のエリート7682人は、ジョーダンのような「ハブ」的人材のおかげで、4.6回握手すれば、どの取締役にもたどりつけるくらいの密なネットワークを形成するにいたる。
さて、日本においては、取締役候補の母集団が米国よりさらに小さいから、米国以上に特定の人が取締役としてひっぱりだこになるだろう。人気のある社外取締役候補は、取締役の責任の重さも考えながら、自分という「人材資本」をどの企業に投資すべきか厳しく選ぶだろう。その結果、優良企業にのみ、高い人気の人材投資家が名前を連ねるから、企業美人コンテストで上位入賞をはたし、高い格付けを得る。同時に、優良企業の社外取締役に選任された人の「人材格付け」もあがることになる。もっとも、エンロンの例が示すように、企業統治に失敗すれば、会社の格付けも人材の格付けも急降下するから、決して企業美人達も油断はできない。 |
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