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いま、上海の中国人エグゼクティブの間で、1冊の本が評判になっているという。原題「Execution」を直訳すると「執行力」だ。
ちょっと聞き慣れないが、この言葉は、いまや時代のキーワードといっても過言ではない。成長まっさかりの中国ばかりではなく、ITバブル崩壊やエンロンの経営破綻(は・たん)に見舞われた後の米国でも、変革が進まない日本でも、会社経営のうえでの最重要テーマは、まさに「執行力」なのである。
国によって背景事情こそ違うが、トップや管理職の仕事が「本社で戦略を描く」ことから「現場で執行をリードする」ことに変わってきた点は共通している。企業変革の難しさは、戦略立案や組織・制度の設計ではなくて、その執行にある。戦略策定や組織改定は変革劇の「台本」にすぎない。問題は、「役者」たる社員が、現場の状況にあわせて台本を咀(そ)嚼(しゃく)し、しっかり演じるか、である。いくら台本が一流でも、肝心の役者の演技が二流だったら、劇場では閑古鳥が鳴く。執行力がなければ、企業の変革も、絵に描いた餅に終わってしまう。
いい例が、みごとに変革に成功した日産だ。99年にCOO(最高執行責任者)に就き、00年に社長となったカルロス・ゴーン氏は、大胆な工場閉鎖や人員削減を打ち出し、それを着実に「執行」したことで話題となったが、実は、ゴーン氏の着任前から、すでに似た内容の変革プログラムが存在していたらしいのだ。ゴーン氏と前任者との違いは、それを執行できたか、できなかったかだ。ゴーン氏は個々の役員たちに「目標を必ず達成する」と約束させ、みずから執行をリードしたのだった。
執行力をつけるうえで大事なことは、まず、実行可能な目標を掲げ、それを着実に実現したうえで、意欲的な最終目標を公言する。水泳の北島康介選手のように、「世界記録を破りたい」と公言して、本当に実現してしまう「有言実行」である。
具体的な例を挙げよう。全国に100店以上を展開する外資系のおもちゃ店チェーンは、十数年前、まだ1店舗もないときから、「1年後には5店、3年後には馘・」という具合に、目標を公にし、それを実現し続けて、みごとな成長を遂げた。
実際、私たち人材コンサルタントが、ある人の市場価値を評価するときも、その人がどんなすばらしい考えを持っていても、そして、それを説得力をもって語る能力をいかに持ち合わせていようとも、全くといっていいほど注目しない。事細かに聞くのは、その人が過去1、2年間に何をやったかだ。執行力こそが価値なのだ。
最後に、悪い例の典型をひとつ挙げよう。・年1月をもって「1府馼・板・廚・蕁孱栄橸居ネ庁」へと衣替えした、中央省庁「改革」だ。内実は、まさに形だけのつじつま合わせ。数が変わっただけで、省庁の実態は、何ら変わらなかった。こういうものは「執行」とは言わない。「執行の回避」にほかならない。政治にも経営感覚が必要で、その核心がマニフェストと執行力ではないか。 |
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