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努力の原動力:「やりたいことパワー」と「やれることパワー」
-- Part4--
前回は、やりたいことの実現にむけた「したたかな会社活用法」として、採用、異動、評価など、キャリアにかかわるところを扱った。今回はその続きをお話する。
まず、最近はやりの成果主義や目標管理制度の利用の仕方を考えてみよう。リストラとセットになった成果主義が浸透していく中で、処遇差をつける根拠が必要となった。そこで、仕事上の目標を設定し、その達成度を測定して評価して報酬を決定するという目標管理制度が導入されたり再生された。多くのマニュアルは、「みずから目標を設定することで達成意欲が高まる」という学説を謳いあげる。ところが、目標管理制度の実態はお粗末だ。短期的な利益を追わざるを得ない台所事情も加わり、上から与えられる「ノルマ管理」や、抽象的で判断基準がはっきりしない「官僚的努力目標」に陥っている。賢い人々は目標ときくだけで肩をすくめる。元来、「課題を認識し、自ら目標をたてて、問題を解決していく」のは、人間にとって本質的な営みである。安っぽい目標管理のせいで、目標という強力な武器が封印されてしまったとしたら、実にもったいない。どうするか。目標管理制度をハイジャックしてはどうか。それには、まず、会社の仕事としてではなくて、あなた自身のビジョンや目標を、あなた自身のために設定して紙に書いてみよう。そのビジョンが実現したらどんな状態になるのか、詳細に描いてみよう。あなたのビジョンや目標に関連するあらゆることを、体系図やツリーの形であらわしてみよう(ビジョン・トリーといわれる)。そこまで自分でやってから、改めて会社からだされるビジョンや上司の目標を眺めると、あなた独自のビジョンや目標との接点がみつかるかもしれない。できれば全社のビジョン・目標体系とあなたの体系とをつきあわせるとよい。そして、イマジネーションを働かせて、会社のビジョンや上司の目標のいいところをちゃっかり拝借して、自分のビジョンを豊かにしてしまおう。ついでに、同僚のビジョンもみて連結してしまおう。私は、自分で勝手にビジョン・目標を創って、他の人とみせあうというワークショップにシリコンバレーにいるとき出た。そこでは、見ず知らずの他人とお互いのビジョンや目標について見せ合った。起業家、主婦、学校の先生、若い人、白髪の老人等、全く関連のない人同士なのに、ビジョンをみせあうと自然に盗み合える関係ができた。驚いた。同時に私は思った。「同じ会社に勤める人や同じ部署にいる人の間でそういう動きが起きないとしたら不思議だ。会社が、目標管理制度に官僚的な呪文をかけて、あなたの自発性を封印してしまってでもいない限り。」と。
目標の次は、会社の中にあるさまざまな業務プロセスに注目してみよう。特に、あなた「自身」の目標の実現に必要な「成果を出すプロセス」という視点で仕事のプロセスを眺めなおしてみよう。私はあるとき、起業家を集めた企業として著名なA社の若いリーダー達10数名にインタビューした。評判通り、どの人も起業家的な思考や動きをしている。でも、どこか変だ。皆同じような起業家プロセスを回しているので、個性のにおいが薄く、起業家特有のオリジナリティが乏しい。いや、むしろ、大企業をけって、A社の良さを目利きして、自らそこに飛び込んだのだから立派なものだ。そして、A社の成果創出プロセスを身に付け、おそらく、外にでてもかなり通用するレベルに至った。リスクをとった人に運命の女神がほほえんだのか。正反対の例もある。私は、某金融機関の役員候補の人達50名ほどにインタビューした後、思わず一人でつぶやいた。「みな錚々たる大学をでて、人間的にも立派な人で、国際経験とかも結構もっているけど、判でついたように、官僚的歯車になりきっている。顧客の視点や自分のユニークさとかが感じられない」と。あなたの思考と行動を、どういう「仕事プロセス」に漬け込むかで、あなたは起業家にも官僚にもなりえる。私は時代に迎合して、「起業家になりましょう。官僚になるのはやめましょう」などといいたいわけではない。起業家から学ぶべきことも官僚から学ぶべきこともある。要は、あなたが自分のビジョンや目標に照らして、どういうプロセスを身に付けるか考えればよいのだ。そしてその観点から、あなたの会社が長い時間かけて練り上げられたプロセスの魔力をうまく使っていけばいい。
プロセスのお次は、プロジェクトだ。あなたの会社にもいろんなプロジェクトXYZが走っているだろう。チャンスがあればぜひ手をあげてプロジェクトに参加してみよう。プロジェクトには必ず、最終期限とそれにいたるフェーズの区切りがある。プロジェクトで走る人は、好むと好まざるとにかかわらず、仮説をたてては実験し結果のフィードバックをみて検証する、というサイクルを繰り返す。さながらスポーツ選手がインターバル走法を練習するように。プロジェクトというスタイルは、仕事才能を短期間で磨くのに最適なのである。ではプロジェクトに恵まれない人はどうするか。自分で自分の仕事をプロジェクト化してしまえばいい。ルーティンの仕事でも、その改善目標をたてて、最終ゴールと期限をきめ、そこに至るマイルストーンもきめて、自分でプロジェクト化してしまえばよい。会社の誰もが当然視して空気のようになっているルーティンを変革できたら、皆あっというはずだ。
プロセスやプロジェクトに関連して、会社がもつもう一つの重要な効用についてのべよう。それは、失敗するチャンスである。あなたがもし独立したら、失敗は命取りになるかもしれない。しかし、あなたが企業に勤めている間は、失敗してもせいぜい左遷されるか出世できないだけだ(最近はリストラのリスクが皆無ではないにせよ)。会社にいる間に、せいぜい意味のある失敗をすることだ。成功によっては、自分の限界をさぐることはできない。成功とは、あなたの力の限界内で動いていることだからだ。失敗すると、自分の限界の向こう側を覗くことができる。企業という懐の深い場で、思い切って失敗し、したたかに立ち直るというチャンスは成長する上で誠に貴重である。
会社活用術は尽きない。あと一回だけこの話を続けよう。 |
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