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上海の風:第十一回
  世界の経営トレンド  (2004年11月25日)

某社から、「最近のトレンドについてなにか話してください」と頼まれた。組織や人事の問題で最近のトレンドというのは何度も話したことがあるが、この会社は中国にあり、中国人はもとより、その他の外国人もいる。しかも、組織や人事に限定せず、文字通り、「最近の傾向」についてはなしてくれ、ということで、引き受けるかまよったが、政治とか経済まではいれずに、経営全般にかかわるようなところで最近の傾向を話すことにして、引き受けた。これを機会に、この14,5年くらいを振り返ってみた。
まず、大きく3つの期間に分かれる、と私は考えた(というか、こういうものは、だいたい3つに分けると相場がきまっている)。
第一期は、「工業化」の仕上げの時代で、これは同時にJapan as No1の時代である。時期的には80年代後半から92年ころまでだ。日本のバブル期である。この時期、経済・経営面での世界の中心はある意味で、日本であった。国際政治的には、ソ連・東欧圏の共産主義が崩壊(ベルリンの壁の崩壊)というきわめて重要なことがおきているが、経済的には、なんといっても日本であった。その時代のキーワードは、「品質」であった。デミングのTQM(total quality management)がおそらく日本の製造業で磨き上げられ、それが世界に普及していった。あわせて、日本企業は、経営の世界に対して、「系列」というサプライチェーンの走りと「チームワーク」という「非階層的で現場中心の組織運営」の方法を提供し、多大な貢献をした。
第二期は、New Economyで、時期的には90年代である。とくに90年代の後半からは、シリコンバレーが世界の中心になった時代である。前の時代は、日本という異文化が、欧米中心の企業社会への挑戦者として現れた時代であったが、この時代は、シリコンバレーという欧米社会のなかにあって、でも、米国でいえば、東部エスタブリッシュメントとは一線を画す、西海岸からの挑戦であった。西海岸は、太平洋に面していて、多くのアジア人が住む(これは次の時代への伏線となっている)。この時代は、まず、米国の企業が、それまでの階層的な組織やジョブ(職務)中心主義の硬直した仕組みについて、シリコンバレーのアメーバ的で動きの早い企業の躍進の前に、企業変革をせまられた時代である。この時代の中心的な企業は、マイクロソフト(シリコンバレーではないが、西海岸)とインテルであり、シスコやサンマイクロなどである。New Economy時代のキーワードは、若干皮肉もこめていえば、financial valuationだろうか。いまからおもうと不思議な感じがするが、当時は、利益がでていなくても、financial valuationによって、錬金術よろしく高額の企業価値が計算され、実際、利益なしで上場をはたし、そこに、投資家たちが多額の投資をしたのであった。同時に、この時代に、「株」が、資本家のものから、企業ではたらいて年金を受け取る人たちのものになっていった。シリコンバレーの企業群は、経営の世界に対して、「フラットな組織」や「企業間のネットワーク」という新しい組織のありかたで貢献した。また、「期待される企業人像」も、従来の階層的な企業に働くサラリーマンから、企業を渡り歩くようなプロフェッショナルとか、新しい企業をつくる起業家、へと変化していった。この時代の帰結は、2000年ころからのドットコムバブルの崩壊で、あっけなかったわけだが、「内部的にはフラット、外とはネットワーク」という新しい組織のありかたや、「プロとか起業家」という新しい人材像は、ドットコムバブルの崩壊をこえて、生き延びて現在にも大きな影響をもっている。
私は、2000年から2年ほど、シリコンバレーで暮らしていたのだが、そこで、ドットコムの崩壊、9.11同時多発テロ、エンロン・ワールドコム事件(米国的なガバナンスの限界露呈。ただしそれにかわるものはいまのところない?)と、はからずも、New Economyの威力と崩壊とともに、世紀の変わり目を象徴するような時代の変化を目撃した。
そして、いま、われわれはどんな時代にはいったのだろうか。おそらく2002、3年ころから、その時代は始まっている。私は、そのセミナーでこの時代をなんと命名しようかと迷った。いや、まだ迷っている。とりあえず、Global Networkの時代とよぶことにした。19世紀にも、パックスブリタニカといわれるなかで、国際的な交流がさかんだった時代があるが、現在の国際関係は、単なる貿易をこえて、インターネットが象徴するようにもっと緊密で即時的な結びつきがグローバルな範囲で生じている。サプライチェーン、アウトソースなどもまさにグローバルなネットワークを端的に象徴している。
この時代の中心は、中国とインドかもしれない。少なくとも、2002年から2012年くらいまでなら、おそらく中国とインドがいろいろな意味で中心になるのだろう。ただし、中国とインドが、場としては中心になるが、グローバルな時代であるから、活動の主体は、この2カ国に限らず、日本も含めた多数の国が入り混じる。それは、イスラム原理主義や米国の今回の選挙などにあらわれているように、文明や文化の時代でもある。
この時代のキーワードはなにか?私は、これまた、とりあえずであるが、global only one value と捉えている。日本に住む日本人が、日本企業のものを使うとは 限らない。世界中で一番価値のあるものを使う、そういう 時代 だ。企業としても、そのサイズにかかわらず、グローバルなネットワークの中で生きることになる。サプライチェーン、アウトソースといったコンセプトも、すべてグローバルに考えられるようになってきた。製造のアウトソースなら中国、東南アジア、東欧だし、ITのアウトソースならインドだ。さらに、最近いわれているビジネス・プロセス・アウトソーシングなら、インドもあれば、先進国を含めた市場に近い場所もありえる。
いずれにしても、この時代は、本質的でユニークな価値を問い始めている。そういう中で、道ですれ違った見ず知らずの外国人に、いきなり、What is your value?ときかれたら、あなたはなんと答えるだろうか。あなたの企業はなんと答えるだろうか。



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