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朝日新聞BE
■No.1
■No.2
■No.3
■No.4
■No.5
■No.6


 
朝日新聞BE 【No.1】

 戦争と新型肺炎SARSのせいか、妙な夢をみた。
 いま中学1年生の私の息子が、なぜか30歳代の会社員になっていた。なじみのお客さんに、ずっと「創造性開発プログラミング」を提供してきたが、「半分の値段で、品質も同じか、ちょっと上のサービス」を提供する競争相手が現れた。戸惑う息子から相談を受けた私は答える。「品質を飛躍的に向上させるか、値下げするか、会社をやめるか、の三つの選択肢しかない。つまり『稼ぐ人』になるか、『安い人』になるか、『余る人』になるかだよ」
 やけに現実味を帯びた夢だった。そう思う第1の理由は、日本企業の給与制度が年功主義から成果主義に変化しつつあるのを目の当たりにしているからだ。年功主義は「毎年、自動的に昇給する」仕組みだ。毎年必ず、「物価が上昇する」のと「能力がアップする」という想定がともに成立している限り、この仕組みには合理性があった。
 しかし、いまやデフレで物価は上がらない。急速な技術革新が続くなかでは、年をとるだけでは能力も向上しない。物価も能力も上がらないのに、給与だけ上昇させれば、会社の経営は破綻(は・たん)する。だから、企業は成果主義に切り替え始めた。
 成果主義を徹底すれば、社内の人材は大きく三種類に分かれていく。成果を出し続けて昇給する「稼ぐ人」か、成果を出せずに賃下げされる「安い人」か、成果もないのに給与も下がらず、リストラされる「余る人」か、だ。
 現実的な夢だと思えた第2の理由は、グローバルな人材競争だ。
 とくに中国経済の「資本主義化」の結果、「安くて強い」競争相手が、一衣帯水の向こう側に現れた。中国では、工員が週末に休日出勤して技術を磨く。それができない職場だと、辞めてしまう。「自分のスキルをあげる機会が奪われる」というのが理由だ。
 日本の某大手電機メーカーの人事担当者も言う。「うちの部長クラスで、中国と日本の技術者を使った人に、どっちを使いたいかと尋ねると、ほとんどが中国人だと答える。理由は給料が約半分で、性能が1・5倍だからだ」
 そんなに、中国の人々は勤勉なのか。あの「夢」を踏まえて、私も勤務先の中国オフィスで、中国人女性の同僚に質問してみた。「家で子どもはどれくらい勉強するの」。小学校2年の子をもつ彼女は「うちはあまり厳しくしていないから、毎日2時間くらいよ」と答えた。ゆとり教育を満喫するわが息子は1時間も勉強しているだろうか。
 心配になった私は、家に戻るとすぐ、息子に言った。
 「おい、お父さんの頃と違って、お前の競争相手は10億人だ。中国人も韓国人もインド人もすごく勉強してるぞ」
 彼は、さらりと応じた。
 「お父さんたちだって、競争はたいへんだよね」
 なるほど、夢の中の息子は、実は私自身だったのか。




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