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上海の風:第十回
  地政学的存在論  (2004年11月14日)

上海をしばらく離れて、北京、マニラ、東京で仕事をしていた。いま、上海に戻る飛行機の上で、「上海の風」をかこうとしているが、上海のことが浮かばない。そこで今回はちょっと風向きをかえてみたい。
僕の周りの人は、ほとんどが、どこかで自分のユニークさ、オンリーワンをもちたがっている。そしておそらくだれよりも、僕自身にその傾向が強い。それはほとんど病気の域に達している。高校生のころから、何よりも、「あなたは、ユニークよ」「君はユニークだよ」といわれたかった。そういわれたら、ほかのどんな評価よりうれしかった。社会人になってからも、「山本は、変わっているよね」といわれると素直にうれしかった。逆に、「あいつも最近、だいぶ常識がわかってきた」などといわれるとがっかりした。しかし、私が最初に社会人になったのは役所(外務省)だ。そういうところで、「変わっている」といわれたら、「あいつは、変わっていて、安心できない。大事な仕事をまかせられない。判断基準がおかしい。常識はずれだ。」というネガティブな評価をされたことに等しい。少なくとも、米国大使にはなれない。役所とは安定性をささえる機構、世の中の常識の元締めであり、そんなところで変わっているというのは、「変人、はずれた人、余る人」である。
中学生の息子は、この間までバスケットに興じていたが、あるおかあさんが、「子供たちは、みなナイキのシューズやウエアをもっているが、それでも、ほかの子供とちょっと色をかえたり、デザインをかえて、固有性を主張する」といっていた。豊かになった日本において、ほかの人と同じ、というのは、いやなのだろう。でもこれは、むしろ、僕が考えているようなユニークさではなくて、あまりに同質性が進みすぎた日本社会を象徴する現象かもしれない。
さて、このユニークさということを考えると、普通は、自分固有ということだから、自分に目がいきがちだ。その自分も、外側のスタイルとかでユニークなのはユニーク道としては、初心者だろう。むしろ、内面的なユニークさを主張するのが、本道だろう。
いやまてよ、そういう内面性というのも、ユニーク道では中級くらいかもしれない。上級のユニークさとは、その人が、世界の中で、どういうポジションニングをとるかではないか。外交・国際政治用語でいえば、地政学が大切なのだ。日本や、イギリスのように、大陸と対面する島国なのか、北欧諸国や、バルト三国のように、大国と陸続きの小国なのか。インドと中国のように、大きな二つの国が隣同士なのか。こういう位置関係、かっこうよくいえば、トポロジカル(位相)な関係が大切だ。どこに位置するかで、国の性格が決まる。個人も、どこに位置するかで、行動の傾向が大きく影響されるのではないか。地政学を個人に適用するとどうなるか。個人版地政学について考えるのは、いまがはじめてだから、とりあえず、自分を題材にして、地政学的に読み解いてみよう。
僕は、20代で、アラブ諸国を経験し、同時に、日本の中枢の官僚組織を経験した(外務省の最近のスキャンダルは、ある意味で、官僚組織のわるさ、古い日本的なものの悪さという意味で勲章だ)。30代は、米国外資系企業を主に日本で経験した。40代になって、米国、それもシリコンバレーに住んだ。その続きの40代で、上海を経験している。日本の人の中で、中近東、米国、中国、をそれなりに深く経験した人は、そんなに多くないだろう。それを経験することに何の意味があるか、なんて野暮なことはいわないでおこう。そこで何を学んだかとか、コンピテンシーがどうだとか、知識がどうだとか、成果をあげたかなどは、一切関係ない。地政学的には、どういうところにいたか、のみが重要である。
こんなふうに、機上で空論モードにはいっていたら、忽然と、ある言葉が浮かんだ。「ただ存在しているだけです。」
これは、外務省の研修所で、私に、アラビア語のてほどきをしてくれた、一風かわった、内記良一という、アラビア語学者が、発した言葉である。砂漠中心の湾岸アラブ世界では、とにかく存在していることだけが重要ですという意味でいわれたのだと思う(裏からいえば、進歩などというものと縁がない、ということをいいたかったのだろうか)。存在、それが問題である。地政学とは存在論にほかならない。私は、能力や成果で、自分のユニークさを主張する自信はもはやもっていない。かわりに、地政学的なユニークさを、ささやかに主張して自己満足にひたりたい:「ただ、(いろいろなところで)存在しているだけでよいのです」。



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