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上海の風:第一回

 今回は、一回目として、私が、昨年7月ごろ、中国にいく前にきいた話で、いった後もいろいろなことを考えるときに役立っているコンセプトを紹介したい。

  それは、「中国人の仕事観、キャリア観」についての友人の田中信彦さんの見方である(田中さんは、中国事情に詳しいジャーナリストであるとともに、中国の日系企業に対して人事コンサルティングを行っている)。

 中国社会とは、「個人とその仲間たち」が単位となっている社会である。従来の日本のように、会社とか役所とか学校とかが単位の社会ではない。つまり、ゲゼルシャフト的でなくて、ゲマインシャフト的である。あてにならない国家の中で、個人が生き抜くには、信頼できる仲間を選びぬき、リスクを分散したしたたかな生き方が必要となる。その根本にある考え方は、「人に自分の運命を左右されず、やりたいことができることが究極的な幸福、自分の命運を他者ににぎられることを極度にきらう。」ということである。

  こういう考え方にたつとき、例えば、典型的な現代中国人は、次のようなキャリア観をもつ。学校で勉強し、できたら海外に留学する。でもそれだけでは社会に通用しないから、まずは比較的大きな会社にはいって、そこでビジネスマナーとか基本スキルをみにつける。でも、そこにずっといようなどとは考えず、3年程度勉強して、大会社にはいったという職歴と人脈と若干の貯金ができたら、「疲れた。人間関係もそんなによくない」とかいってやめる。そして「何もしない」というお休みのフェーズをいれる。友人が会社をつくるから協力してくれなどといわれたら、そういうときのみパート的に手伝う。あるいはもっと本格的に手伝うが、3年もしてあまりぱっとしなかったら、自分の実力不足かなと考えて、今度は小さな会社にはいって専問ノウハウを磨こうとする。それがうまくいったら独立自営に挑戦する。そしてうまくいけばお金持ちになる。要するに、自分がやりたいことに向かう大きなベクトルをもちつつ、利用できるものを利用していくという思考・行動特性である。

  「人から運命を左右されたくない」という考え方から、利害関係を分散化させるという考え方も生まれる。例えば、収入源の多様化(夜のバイト)や、第二・第三の職業を同時にもつとか、長男を米国に留学させたら次女は欧州とか(一人っ子政策はともかく)、家族の一人は外国人と結婚させるとか、要するに、徹底的にリスクを分散しておく。こういう中国人から見ると、一つの会社のみと運命を共同にするような考えとか、家族の中の一人の稼ぎ手だけに依存するとか、ひとつの国だけで家族を固めるといった、「ひとつにかける」タイプの行動様式にはとてもついていけない、ということになるだろう。だいたい、いくらボスにきにいられても、ボスがかわったら首になるかもしれないし、会社が撤退するかもしれない、というリスクは常に考えておくのである。また、いやな上司とならけんかしてもこわくない、という状態にするためにもリスクの分散が必要である。

  さらに田中さんからきいた話を続けると、類は友を呼ぶで、いい中国人はいい中国人と仲間になる(それを圏子quanzとよぶ)。外国人も、いい圏子にいれてもらえれば、多くのことがうまくいく。働けと命令したり、べらぼうな金銭的インセンティブをぶらさげなくても、自律的に働いてくれる。逆に悪い圏子にはいってしまうと、始終、だまされないか、ずるいことをされないか、と警戒するはめに陥る。そして、田中さんによると、どういう圏子をひきつけるかは、当の外国人次第ということになる。いくらいい会社に勤めていても、個人として魅力がないといい圏子にはいれてもらえない。「中国人は、一日中面接をして、いい仲間を選ぼうとしているのですよ」というのが田中さんの指摘である。なかなか疲れそうなところである。



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